クレジットデフォルトスワップ(CDS)とは?

今週は、本当に疲れました。2週間ほどロンドンに行ってきて、帰ってから3連休だったので、時差ボケを直しつつ少しゆっくりできたものの、3連休最終日の月曜日にリーマンが破綻。その後は、米国政府によるAIGの救済(ただし、現時点においてはCDSのクレジットイベントには該当しないと理解されている)、BOAによるメリルの買収、ロイズTSBによるHBOSの買収、MSまわりの合併観測、資本参加のウワサ、およびGSを含めた株価下落、CDSのワイドニング、などなどとやたらボラタイルなマーケットでした。

ということで、ほんとにいろいろありましたが、ここ最近は、新聞(例えば、以下の引用など)を読んでいても、いろいろなブログ(こことか、ここなど)なんかを読んでいても、けっこうCDSという言葉を目にするようになりました。

AIG救済要因の信用デリバティブ、国内取引残高3年で10倍超

 茂木敏充金融担当相は19日の参院財政金融委員会で、米保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が公的に救済される要因となった、信用デリバティブの一種であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を巡り、日本国内の取引残高(想定元本ベース)が2007年6月末時点で8128億ドルと、3年前の10倍超に急増したことを明らかにした。

 企業の倒産リスクを「保険料率」の形で売買するCDSの残高は04年6月末で784億ドルだった。世界の取引残高はこの間、8兆4222億ドル(04年末)から62兆1732億ドル(07年末)に増加したとも説明した。(07:00)

http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080920AT2C1901H19092008.html


4月に留学から帰国して以降、クレジットデリバティブ関連の仕事をするようになったので、まだ初心者(業務経験半年弱です!)ではありますが、自分の理解の確認のためにも、クレジットデフォルトスワップについて簡単に説明してみたいと思います(以前、バリアンススワップについて書きましたが、クレジットデフォルトスワップの方がより親しみやすいデリバティブなのではないかと思います)。

ということで、始めます。以下では、クレジットデフォルトスワップ(Credit Default Swap)を簡単に、CDSと書きます。


CDSを一言で説明すると、

契約時に特定したある参照組織(一般的には、企業)の倒産に対する保険契約

と言えるかと思います。

つまり、ある参照組織(例えば、トヨタ自動車)が倒産すると困る人がいる場合に、その倒産リスクを回避(ヘッジ)したい場合に、保険契約を結びたいと考えるかもしれません。その保険契約とは、例えば次のようなものです。

保険契約を買いたい人をB(Buyer)さん、保険契約を売りたい人をS(Seller)さんとします。

2008年9月20日から2013年9月20日の間(5年間)に、トヨタ自動車株式会社が倒産したら、SさんはBさんに1億円(想定元本)を払うこととする。ただし、BさんはSさんに毎年保険料として、30万円の支払いをするものとする。また、倒産が起きた場合には、その後の保険料の支払いは発生しないものとする。

これがCDS契約の中身です。それほど難しい話ではないと思いますが、いかがでしょうか。

2008年9月20日に契約が始まって、1年間トヨタ自動車が倒産しなければ、BさんはSさんに30万円支払います。

その後、2009年9月20日までの1年間で、トヨタ自動車が倒産しなければ、BさんはSさんにさらに30万円支払います。

ところが、2009年9月21日にトヨタ自動車が倒産したとしましょう(クレジットイベントの発生)。SさんはBさんに保険金額(想定元本)である1億円を支払って、このCDS契約は終了となります。

一方、もし契約満期である2013年9月20日までトヨタ自動車が倒産しなかったら、BさんはSさんに合計30万円×5=150万円だけ支払い、SさんはBさんに何の支払いをすることもなく契約終了となります。


上記の例では実際の取引慣行とは若干異なる形で簡単化して書きましたが、基本的な考え方を理解するだけであればこれで問題ないと思います。

実際の取引慣行と具体的に異なる点としては、いくつかありますが、例えば、上では倒産と書きましたが、通常は「倒産が起きた場合」のみではなく、「クレジットイベントが発生した場合」とより一般的な形で定義され、企業を参照組織とするCDS契約の場合、

  1. バンクラプシー(Bankruptcy、ISDA邦訳では破産)
  2. 支払不履行(Failure to Pay)
  3. リストラクチャリング(Restructuring)

の3つをクレジットイベントとみなす3CE(CE: Credit Event)での契約が一般的となっています(それぞれの詳細は割愛させて頂きます)。

また、上ではクレジットイベントが発生した場合に1億円支払われると書きましたが、実際にはあらかじめ定めた引渡可能債務をBさんはSさんに引き渡すことになっています(現物決済)。

さらに細かいことですが、保険料の支払いは年1回払いではなく、年4回払いです。


債券投資に詳しい方にとっては、企業の、国債に対する上乗せ金利分のみをスワップという形で取引するもの(とほぼ同等)、と言えばわかりやすいかもしれません。


ちなみに、このCDSですが、ISDA(the International Swaps and Derivatives Association, Inc.)の統計によると、急速に取引残高が増大しています。参考までに2003年と2007年の数字を比較すると、約3.78兆ドルから2007年には約62.2兆ドルまで増大しています(以下のISDAの数字では、trillionが抜けているように見えます。またこの数字は上の日経の記事にある数字と同じでしょう)。

2007 YEAR-END MARKET SURVEY

Notional amounts of interest rate derivatives outstanding grew almost 10 percent to $382.3 trillion in the second half of 2007. For the year as a whole, interest rate derivatives notionals rose 34 percent.

The notional amount outstanding of credit default swaps (CDS) grew 37 percent to $62.2 in the second half of 2007. CDS notional growth was 81 percent for all of 2007.

Notional amounts of equity derivatives remained flat at approximately $10 trillion during the second half of 2007. The annual growth rate for all of 2007 was 39 percent.

In this survey, 91 firms provided data on interest rate swaps, 81 provided responses on credit derivatives, and 83 provided responses on equity derivatives. All major dealers responded.


2003 YEAR-END MARKET SURVEY

The notional principal outstanding volume of interest rate derivatives, which include interest rate swaps and options and cross-currency interest rate swaps, grew by 15 per cent to $142.31 trillion during the second half of 2003. This is a slower rate of growth than in the first half of 2003, during which interest rate derivatives grew by 24 percent. For all 2003, the year-over-year growth rate from December 2002 to December 2003 was 43 percent. A record 120 firms responded to the Survey.

Credit derivatives, in contrast, grew at a stronger rate in the second half (41 percent) than in the preceding six months (25 percent); notional amounts now stand at $3.78 trillion (originally reported as $3.58 trillion). This represents a year-over-year growth of 76 percent. Credit derivatives, for the purposes of the Survey, consist of credit default swaps on individual names, baskets, and portfolios. 110 firms provided data on credit default swaps.

Finally, notional outstandings for equity derivatives, consisting of equity swaps, options, and forwards, grew 24 per cent, compared with 14 percent in the first half. Notionals now stand at $3.44 trillion. This represents year-over-year growth of 41 percent. 106 firms provided data on equity derivatives.

http://www.isda.org/


ちなみに、このCDS契約ですが、クレジットデリバティブの中では最もシンプルな契約です。デリバティブという名前ではありますが、感覚的にはエクイティデリバティブでいうところの現物に相当しており、クレジットデリバティブではこのCDSを基本として、FtD(First to Default)、シンセティックCDO(Collateralised Debt Obligation)などのより複雑な商品が組成されています。そういう意味ではやはり現物なんだと思います。


このブログにもたまにコメントをくださる投資一族の長さんによれば、ガンマ無き者はデリバティブに非ずとのことですが、そういう意味ではクレジットデリバティブもデリバティブとみなしてもよいかと思います。ただ、現物株式と比べてしまうと流動性が極端に低いので、楽しくガンマトレーディングをすることは現在の東京市場では不可能ではあるのですが。

それから、たまにCDOという言葉を聞いただけで、サブプライムと関連があると勘違いされている方がいるようですが、CDOというのは商品の仕組みの一般的な名称であって、その中身(原資産)が何であるかによってまったく別物になってきます。サブプライムABS(具体的にはRMBS)を参照するCDOはサブプライム問題のど真ん中ですが、日本企業を参照するCDOはまた別物です。


仮に、この記事を読まれて理解できなくても、まったく気にされる必要はありません。半年近く仕事をしていても、ぼくも未だによくわかっていませんから。もしくはぼくの説明が下手なだけでしょう。

なんか、思い切り仕事関連のネタを書いてみました。


(12月13日追記)よろしければ以下のエントリもご覧ください。

ブログ内関連エントリ一覧

  1. OTC derivatives は Correlation derivatives
  2. CDSの残高が減少したようです
  3. クレジットデフォルトスワップ(CDS)の決済方法-リーマン・ブラザーズの例
  4. クレジットデフォルトスワップ(CDS)における回収率とは?
  5. 「損失肩代わり商品は一般に「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれる。」んですか?
  6. クレジットデリバティブに関するQ&Aの掲載について


本格的に勉強されたい方は、以下の本がおすすめです。

クレジット・デリバティブのすべて 第2版
河合 祐子
4881777424

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CDSがどうのこうのと、この2008年10月の暴落でよく聞くのですが、CDSって何? CDSとは? クレジット・デフォルト・スワップ (C... 続きを読む

Comments [10]

CDSの残高が巨額(正確な金額が存在するのか?)すぎて、今後の影響の大きさが想像できません。
至急に全世界レベルで対応組織を組成すべきでは?
(これまで金融商品等への規制が甘すぎたのではないでしょうか。今更言ってもむなしいですが)

kahnさん、コメントありがとうございます。

ご指摘の通り、残高に関する統計はどの程度正確なものなのか不明ですね。

全世界的に、現在の仕組みを改めていく必要があるのだと思います。

CDSに関する解説、大変分かりやすく勉強になりました。

Yahoo!ファイナンスの掲示板で、「CDSの値が500を超える企業は危険水域に入っている」という書き込みがあったのですが、この法則はある程度、信ぴょう性のあるものなのでしょうか?

J-CDSのCDS参考値一覧を見ると、JALやアイフルといった企業のCDSが500を上回っているようです。
http://www.j-cds.com/jp/

NKさん、コメントありがとうございます。

CDSのプライスは一般的にベーシスポイントという単位でクオートされており、ベーシスポイントは%の100分の1です。ですから、500というのは年率5%という意味になります。想定元本が1億円であれば、年間500万円の支払いが行われるCDS契約ということになります。

さて、この500という数字に特別な意味があるかないかというお話ですが、ぼくは特別な意味はないと思います。一般的には数字が大きい方が、その参照組織の倒産確率(正確には、クレジットイベントが発生する確率)が高いとマーケットが見ていることを意味しています。確かに、500というのはかなり高めの数字です。モルガンスタンレーやゴールドマンサックス、GECCといったアメリカの企業を参照するCDSも最近は500を上回って推移していました。

ただ、株価と同じで、株価が100円を割れたら倒産する、とは必ずしも言えないように、明確なラインがあるわけではないと考えています。

yokokenさん

ご丁寧なご説明を返信いただきありがとうございました。
CDSの値の正確な意味が理解できました。

また、一定の数値を上回ったからといって、とくに何らかの兆候を特定できるわけではないとのことで、安心しました・・・。

NKさん

少しでもお役に立てたようでよかったです。また何かありましたら聞いて頂ければと思います。

はじめまして、CDSについて色々調べているうちにこのブログに辿り着きました。

いつも疑問に思っている事があるのですが・・・これは恐らく実務ということになるのだと思いますので、お分かりでしたら是非お教えいただきたいのです。

実際のCDSですが、相対で取引されている以上元証券が存在していると思います。という事はCDSの残高イコール元証券の発行残高?と思ってしまいます。
ところがそれがどうもそうではない・・・というのが残高多さからも想像できます。では、このCDSの残高というのは一体何なんでしょう?CDSを更に転売して?それもおかしい話で、元証券がデフォルトすると転売の最終受け手が負担するというだけなのでは?・・・といつも思ってしまいます。

今回のリーマンのCDS入札の結果が91.275セントだそうですが、これは「91.275セントもらえないとCDS受けないよ」という事だと想像しています。元本の91.275%貰わないとリスクを保証しないということなんだろうなと・・・。

リーマンのCDS残高が40兆円程度で91.275%が毀損したとなると逆に保護された債券も40兆円あるのでは?・・・・と思ってしまうのですが・・・。

今残高がどうして問題になっているかと考えてみると、ジャンク以下のクズ債券にもCDSで保障をかけて販売してみたが・・・実はジャンク以下の債券でデフォルトだらけになってしまった・・・ということなのかな・・・とか。

この残高というのはどういう事なのでしょう?その辺り、お分かりになれば是非教えていただけませんか?

もとさん、コメントありがとうございます。

CDSの残高については確かにわかりにくいですね。新しく一つエントリを書きましたので、詳しくはそちらをご覧頂ければと思います。さらにご不明な点がありましたら、またコメント頂ければと思います。

ここでは簡単にお答えさせて頂きます。

> 実際のCDSですが、相対で取引されている以上元証券が存在していると思います。という事はCDSの残高イコール元証券の発行残高?と思ってしまいます。

CDSの残高は、原証券というか、参照債務の残高とは関係ありません。


> 今回のリーマンのCDS入札の結果が91.275セントだそうですが、これは「91.275セントもらえないとCDS受けないよ」という事だと想像しています。元本の91.275%貰わないとリスクを保証しないということなんだろうなと・・・。

この91.275(Reutersによると91.375だそうです)というのは、CDSの保証料(プレミアム)ではなく、回収率(Recovery Rate)と呼ばれているものです。リーマンに対する新規のCDS契約はもはや発生しません。

CDSに連動して株を売買するヘッジファンドが最近運用騰落率が上がっているとの報道で、ネットでググッていたら訪問してしまいましたが、CDSの中身がなんとなくイメージでつかめた気がします。

ガネーシャさん、コメントありがとうございます。

少しでもお役に立てたようで何よりです。よろしければまた訪れて頂ければと思います。

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