戦略と実行―組織的コミュニケーションとは何か

戦略と実行―組織的コミュニケーションとは何か
戦略と実行―組織的コミュニケーションとは何か清水 勝彦

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戦略と実行
 組織的コミュニケーションとは何か

内容紹介

マイケル・ポーター『競争の戦略』が刊行されたのは30年以上も昔のことだ。いまや企業にとって戦略は必要不可欠なものとなった。戦略を持たない企業はないといえる。ところが、一時ブームとなった「ブルーオーシャン戦略」は、他社との差別化の道は容易には見つからないという厳しい現実を前に、あっという間に廃れてしまった。どの企業も同じような戦略を立て、差別化が困難という状況が続いている。
 どの企業も頭のいい人が集まって立派な「成長戦略」を掲げているのに勝者、敗者に分かれるのは、戦略の本質を理解した「実行」が決め手になっているから。企業の業績は戦略と実行の掛け算であり、戦略立案=トップの役割、実行=現場の役割といった二分法ではうまくいかない。戦略とは分析、ロジックであり、実行は組織における人間の気持ち、やる気である。本書は、戦略実行における問題点、失敗事例を挙げながら、実行の要となる「組織におけるコミュニケーション」を深堀りする。

目 次

戦略と実行

はじめに

第一部 戦略実行の「今」

第1章 戦略実行の原点

 1・ロジック経営の陥穽
 2・経営の気持ち
 3・実行とコミュニケーション
 
第二部 戦略実行の問題点

第2章 戦略と実行

 1・戦略のコモデティ化
 2・コンサルティング会社に見る「実行」の変遷
 3・「戦略」と「実行」への誤解
 4・「実行」の本質

 ■戦略実行の事例1
   ヒューレット・パッカードの失敗

第3章 戦略実行の失敗分析

 1・戦略実行の失敗要因
    a.トップの鶴の一声とあれもこれも
b.時間・準備不足
    c.戦略が不明確
d.実行と評価制度がリンクしていない
e.責任が不明確
f.部門間の対立
g.納得度が低い
h.片手間の実行
i.情熱・本気度の不足
 2・戦略実行の失敗分析の前提
    a.トップの鶴の一声
b.時間・準備不足
c.戦略が不明確
d.実行と評価制度がリンクしていない
e.責任が不明確
f.部門間の対立
g.納得性が低い
h.片手間の実行
i.情熱・本気度の不足
3・戦略実行失敗の構造的問題

第三部 組織におけるコミュニケーション

第4章 コミュニケーション

 1・素振りとゲーム
 2・コミュニケーションとは何か
 3・組織におけるコミュニケーション
 4・コミュニケーションは「聞く」ことから始まる
 5・コミュニケーションと感情
 
第5章 コミュニケーションと戦略実行

 1・戦略実行とコミュニケーション
 2・階層とコミュニケーション
 
第6章 コミュニケーションの論点

 1・コミュニケーションの成果よ効率
 2・地獄と天国のコミュニケーション
 3・PDCAが回らないわけ

第7章 戦略の共有化・コミュニケーションに関する研究の示唆

 1・会議の目的と現実
 2・知識(抽象)と現場(具象)
 3・戦略の共有と業績
 4・部下との認識の共有と業績

 ■戦略実行の事例2
   サターンの失敗

第四部 組織の実行力向上に向けて

第8章 組織の実行力を測る10の質問

 1・あなたは、相手が話を聞かないのは自分の責任だと思っているか?
 2・あなたは、会社のビジョンを「絵」に描けるか?
 3・あなたは、Planにどれだけ資源をかけているか知っているか?
 4・あなたは、Checkをした「つもり」になっていないか?
 5・あなたは、制度を作って「できた」と思っていないか?
 6・「成功」と「失敗」の二元法で様々なことが語られていないか?
 7・あなたは、「和気あいあい」が「コミュニケーションがよい」ことであると思っていないか?
 8・「根負け」したり、させられた経験を、社員が持っているか?
 9・あなたは、現場での「発見」を奨励しているか?
 10・あなたは、「コミュニケーション」に効率性ばかり求めていないか?
 
第9章 まとめ:今の日本の経営の問題

 1・戦略のコモディティ化再考
 2・まとめ


あとがき
「戦略実行」の参考書

http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P48450.html


この本を読んで、戦略は実行されて初めて意味があるんだと強く思いました。頭でっかちな戦略だけを立案しても、実行され、結果につながらなければ意味がないんだと思います。

シティグループの次期CEOとみなされながら、サンディ・ワイルに解雇され(1998年)、その後に職を得たバンクワンがJPモルガン・チェースに買収されると同時にCEOとしてウォールストリートに返り咲き、そればかりか金融危機を乗り切ってシティバンクにはるかに差をつけているジェームズ・デイモンは、「ありきたりの戦略をきっちり実行するほうが、すばらしい戦略を立てて実行につまずくよりもはるかに意味がある」と断言しています(フォーチュン2002年7月22日号)。(P.4)

これは確かにその通りな気がします。実態としては、きっちり実行できていない企業がほとんどなのではないかと思います。


日産自動車のゴーンCEOは「社員には自分たちがどこに行こうとしているのか絶えず知らせる必要があります。戦略と目標を明示されることによって社員たちは鼓舞されるのです」と指摘します。つまり目標や戦略がきちんと共有されていれば、それは実行につながるということです。(P.23)

戦略を作ったとしても、それがトップの自己満足で終わってしまっては、実行にはつながらないのでしょう。戦略が全従業員に共有され、それが表面的ではなく、腹に落ちて初めて共有できたと言えるのではないかと思います。


ヘンリー・ミンツバーグはその著書『Managers, not MBAs』(2004年、邦訳は『MBAが会社を滅ぼす』日経BP社)で、経営者に必要な三つの要素を挙げています。

1.分析を中心とした科学的要素
2.経験を中心とした職人的要素
3.ビジョンの創造というアートの要素

そして、これまでの経営の見方、その結果としてMBA教育は第一の「分析」を中心とした科学的要素に偏りすぎていると指摘します。よくトップの役割と指摘されるビジョンだけでなく、経験から学ぶ職人的な要素が必要だとするところに、ミンツバーグの真骨頂があります。過去のデータの分析と将来のビジョンは、戦略の実行を通じて得られる経験と学習があって初めて結びつき、結果が出るのです。(P.51-52)

この3つの要素を兼ね備えた経営者というのはどれほどいるものなのでしょうか。


「伝える」から「共有」へ

Said ne Heard
(こっちが言ったからといって、聞いてもらえたわけではない)

Heard ne Listened
(「聞いて」もらえたからといって、「聴いて」もらえたわけではない)

Listened ne Understood
(聴いてもらえたからといって、理解してもらえたわけではない)

Understood ne Agreed
(理解してもらえたからといって、賛成してもらえたわけではない)

Agreed ne Convinced
(賛成してもらえたからといって、腑に落ちて納得して行動しようと思ってもらえたわけではない)

(P.157)

他人に納得させるのがいかに難しいかをきちんと理解した上で行動する必要がありますね。


まさに、「まず相手を理解することに努めなさい。その上で、自分を理解してもらおうとしなさい」(Seek first to understand, then to be understood)(P.163)が重要なんだと思います。


「コミュニケーションとは意味を共有化することである」という定義には二つの意味を含んでいます。一つは、「内容について共有すること」、(中略)もう一つは「何が共有できており、何が共有できていないか」を共有化することです。(P.178-179)

この2点目に関してはほんとに重要だなと思います。何が共有できていて、何が共有できていないかを明確にしないまま、いろいろと議論していても、あまり意味のある議論はできないのではないかとよく思います。


戦略の実行、そしてそのためのコミュニケーションという視点から言えば「トップが現場を知る」とはいくつかのレベルがあります。(中略)
1.現場の市場・競合情報を知る
2.現場に、トップの指示が届いているかどうかを知る
(中略)
3.現場の人間がどのような気持ちかを知る
4.現場の人間が、自分の気持ちをわかっているかどうかを知る

(P.191-192)

特にこの後半2つの点こそがコミュニケーションなのではないかと思います。そういった気持ちを共有できていれば、強い組織になるのではないでしょうか。


「仲が悪いからコミュニケーションがない」のではなく、「コミュニケーションがないから仲が悪くなる」(P.202)

確かにそうかもしれません。


CDIで私と一緒に働き、その後、産業再生機構を経て経営共創基盤でマネージング・ダイレクターをしている田中正範氏が私のクラスに来てくれたときに大変奥の深い指摘をしてくれました。

社長が、明日これをやるといってやらなかったら、みんなにうそつきといわれる。しかし、一年後にこれをやるといって出来なくても、みんな何も言わない。(P.231-232)

時間の効果は非常に大きいわけですね。


どんなにすばらしいアイデア、戦略を作っても、その実行に同じかそれ以上の労力を持って取り組むことがなければ、本当の果実は得られません。「仮説」と知りながら全力で取り組む、その二律背反した命題に取り組める力こそが組織の実行力なのだと思います。(P.275-276)

結局はいかに実行できるか、それにつきる感じでしょうか。

ということで、清水勝彦さんの戦略に関する3部作の完結編でした。他の2冊は以下のものです。どれも平易な言葉で書かれているので読みやすい本でした。


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